島田荘司先生の御手洗潔シリーズの二作目になる『斜め屋敷の犯罪』。ミステリー界に衝撃を与えた『占星術殺人事件』の次は館を舞台にした正統派〝館〟ミステリーとなっています。
斜め屋敷という名前の通り、傾けて建てられた西洋館で起きる密室連続殺人事件。この異形建築の館……つまりオーナーの趣味で建てられた変てこりんな館で起こる殺人事件という〝変形屋敷ミステリー〟の先駆的作品です。
『占星術殺人事件』と同じように今回も読者への挑戦状が出されます。私は犯人はこの人じゃないかな……っていうのは当たっていたのですが、動機は全然分からないし、何よりどうやって殺したかというのは全然分かりませんでした! いや、あのトリックを言い当てるのは無理だと思います 笑
『占星術殺人事件』のあらすじと感想&ネタバレはこちらです。
『斜め屋敷の犯罪』のあらすじ
北海道の最北端、宗谷岬の高台に斜めに傾いて立つ西洋館。「流氷館」と名付けられたこの奇妙な館で、主人の浜本幸三郎がクリスマス・パーティーを開いた夜、奇怪な密室殺人が起きる。招かれた人々の狂乱する中で、またもや次の惨劇が……。恐怖の連続密室殺人事件の謎に挑戦する名探偵・御手洗潔。本格推理名作。
講談社文庫 裏表紙より
日本の最も北の果て、北海道、宗谷岬の外れのオホーツク海を見下ろす高台の上に、土地の人が「斜め屋敷」と呼ぶ風変わりな建造物が建っています。三階建ての西洋風の館と、その隣にピサの斜塔を模した風な円筒形の塔からなっていいるのです。斜め屋敷と呼ばれるだけあって、二つとも最初から斜めに傾けて建てられているというなかなかトリッキーな建物です。
この館で大勢の客を招いてクリスマスパーティーが行われます。そしてその翌日、一人の男が朝になっても起きてきません。客の一人が様子を見に行くとドアは鍵がかかっており返事もないので、いったん引き返し全員で部屋に向かい数人で体当たりをしてドアを壊して中に入ると、心臓にナイフを突き立てられて死んでいたのです。
警察が到着して全員のアリバイを調べますが死亡推定時刻が深夜なのでアリバイがはっきりと証明できる者はおらず、またその男を殺す動機を持つような関係性のある人物はいない上に、完全な密室であったために捜査は難航します。
その夜、刑事達が泊まり込む中で再び殺人が起こります。部屋には家具が倒れ争ったような跡があるもののまたもや厳重な密室であり、背中からナイフを深々と突き立てられていました。刑事達がいる中で再び起こった密室殺人事件。解決の糸口も掴めずに困り果てた刑事達は東京の一課に応援を頼みます。そこで一課の刑事が送り込んできたのが、かの梅沢家の殺人事件を解決したという噂を持つ、御手洗潔と助手の石岡和己でした。
御手洗は独特の視点から斜め屋敷の奇妙な建築構造や住民の行動に注目し、不可解な事件に挑みます。事件解決の鍵となるのは、この屋敷の物理的な特性と巧妙に仕組まれた密室トリックです。
物語のクライマックスでは、御手洗潔が事件の全貌を明らかにし、屋敷がどのように犯行に関わっているか、そして犯人の真の動機が次第に明かされていきます。
感想と(ネタバレも?)
あのセンセーショナルな『占星術殺人事件』に登場する探偵、御手洗潔シリーズの二作目!という事でワクワクしながら読んだのですが、1つだけ不満があるとすれば「御手洗登場するの遅っ!」って事でしょうか。
幾ら読み進めても出てこない。読みながらちょっと本を立ててみると、すでに半分は過ぎている。「え? もうすぐ終盤だよ?」「いつ出てくるの」「これ、御手洗潔出てくるんだよね??」とかな~り不安になったところでやっと登場しましたよ! この時の嬉しさと言ったら! 随分お預けを食らいました 笑
御手洗潔という男
そのやっと出てきた名探偵ですが、登場した途端に「意味不明な演説」をし、エキセントリックな言動を繰り返すので全員が面食らい苦笑や失笑に変わっていく……というある意味、御手洗らしいというか、この人に慣れる人なんて石岡しかいないよなぁとしみじみ感じます。
ただ、この時点で御手洗はほぼ犯人の見当がついており、その犯人をあぶり出す為にすぐに仕掛けを施していくのです。何か変なことしてるなぁ……と思ったらそういう理由があったことを終幕で知り嘘でしょ!?と驚愕。しかも殺害方法も大体見当がついているのも凄すぎる。どういう脳味噌してるんだろうっていう。本当に天才なんですよね…。
「犯人はゴーレムだ」と言い、等身大の人形に洋服を着せたり帽子を被せてはしゃいだりして周りの者に「こいつやばいぞ…」と思われていた彼ですが、いわゆるこれが肝だったんですよね。まさかこの行動が大きな意味を持つとは。
東京(警視庁の第一課)の中村刑事(他のシリーズでも出てきます)が札幌署からの応援に応えて送ってきた電報には〝そのような奇怪千万な事件に、ふさわしい人間は、日本中にこの男の他に無し〟という内容で御手洗を送り込んできます。警察関係者にこういう風に思われてるんだなと言うのが知れて面白いですね。
あと、犯人が最後になんで終始一貫道化の真似をしてたんだ、とか最初から頭脳明晰ぶりを見せなかったのは油断させるためですね、とか御手洗に言うんですけど、いえ全然そんな事はなくて彼の地ですってのが可笑しくて。御手洗という男をよく表しているなぁと感じました。
殺害方法
上でも書きましたが、犯人の想像は何となくついていたのですが、殺害方法が全く分からなくて。密室もどうやったって犯行は無理じゃんっていう状況なんですよね。じゃあなんで犯人の想像がついたのかと言うと、消去法でいったのとあと動機があるとしたらこの人くらいかな…という漠然とした理由でした。
だから御手洗が「こうでしょ?」って、コンパスはこう使うんですよくらいの簡単なノリで殺害方法を披露した時には、とにかく「え~~!?」っていう驚きでいっぱいで。いやぁ、そんなの思いつきます? その為にあれを……って犯人の下準備のスケールの大きさに驚くを通り越して若干引いちゃいましたよね~。
前作の占星術殺人事件のトリックも誰も考えつかないだろうというもので、とにかく小手先で考えてはいけなくてもっと想像力を膨らます&大胆にしないと島田先生の挑戦状には応えられないという事がよく分かりました。
動機はこれは本編の中には出てこない過去の事なので分からなくても構わないのですが、殺害方法がね……。ちょいちょい気になる描写があるんですよ。廊下の意味ありげな隙間や階段の材質が全部同じじゃないとか、何かあるとは思ったんですけど想像力を膨らませられなかったです……。いやでも分からないってこんなの!
その他
プライドが高く我儘で女王様のような振る舞いの英子お嬢様が結構好きだったのですが、日下が運ばれていくときに「泣いて縋った」のが意外で。行動では微塵も素振りがなかったけれど日下の事は純粋に好きだったのかも…。クミにも釘を刺してたし。
だから! 英子お嬢様がどうなったのか詳しく知りたかった!
エピローグでその後の関係者の話がちらほら書かれているのですが、英子お嬢様が誰と結婚したという話は聞かないってあって、聞かないだけであって誰かと…日下としてるよね? という淡い期待。日下も英子お嬢様の事は好きだったろうし、あのような結末になっても日下はさっさと英子お嬢様を見捨てるようなことはないのでは……と一縷の望みをかけています。(私、改訂版は読んでないのですが、もしかしてその辺に言及してありますか?)
それから石岡の影の薄さに泣いた 笑。占星術殺人事件ではあれほど駆けずり回って糸口を探していたのに、今回は何もしていない。御手洗もこっそり他の人に助手役を頼んでいるし。最後は石岡目線で話が進んでいるけど、今回も全く御手洗から何も聞かされていないんだなぁ…と不憫になってしまうくらい。毎回置いてけぼりで可哀想。
で、これはかなりネタバレになってしまうのですが——
◇ ◇ ◇
まさか最後にタイトルの伏線回収が来るなんて思わないじゃないですか。
確かに「〇〇邸の殺人」とか「◇◇◇館の殺人事件」とかいうタイトルが普通なのに「斜め屋敷の犯罪」ってちょっとニュアンスが違うなとは思っていたんですよ。建物が擬人化されてるっていうか。
その意味が最後に分かった時……このタイトルが全てを表していたのかー!って頭をフライパンでグワンと殴られたような衝撃を受けました。ん~心憎いっ☆
コミカライズや映画化はされているの?
これはですね、当サイトの別記事『占星術殺人事件』あらすじと感想(ネタバレも?)』でも散々嘆いているのですが、コミカライズされているのはほんの数作品で、映像化も一つだけです。
この『斜め屋敷の殺人』もメディア化はされていません。
せっかくなので、唯一実写映画化された『探偵ミタライの事件簿 星籠の海』を紹介しておきますね。(御手洗めっちゃイケメン…)
Prime Videoで見ることができます。
いかがでしたか?
予想だにしない殺害方法にぜひびっくりして欲しいです
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