『水車館の殺人』 あらすじと感想&ネタバレも?

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今回は綾辻行人先生の〝館シリーズ〟の二作目の『水車館の殺人』(講談社文庫)について書きたいと思います。 


この『水車館の殺人』は、綾辻先生が5年かけて執筆した『十角館の殺人』(1987年9月発売)の出版が決まった頃に、担当編集者に「二作目の長編を書いてください」と言われ、「そんな短期間に同じレベルの長編物なんて書けるわけがない」と途方に暮れていたところ、急に「〝館シリーズ〟にしたら面白そうではないか?」と閃いて1987年の7月から執筆に取り掛かられたという作品です。                                                                                                                                                                                                                                                                         

あれ? 『水車館の殺人』は1988年2月に出版されているのですが…??? 先生、いくら何でも執筆が早すぎるのでは……

それでは紹介していきましょう!

目次

水車館の殺人のあらすじ

水車の写真
image by Manfred Antranias Zimmer from Pixabay

あらすじ

古城を思わせる異形の建物「水車館」の主人は、過去の事故で顔面を傷つけ、常に仮面をかぶる。そして妻は幽閉同然の美少女。ここにうさんくさい客たちが集まった時点から、惨劇の幕が開く!
密室から男が消失した事と、一年前の奇怪な殺人とは、どう関連するか?
驚異の仕掛けをひそませた野心作。

講談社文庫 裏表紙より

舞台は岡山北部の山あいにある古城のような建物。外壁に囲まれていて塔があり、外壁の外側にある水路で大きな水車が三基回っています。住人は館の当主である顔に白いゴムの仮面をつけて白い手袋をした車椅子に座る男。その幼な妻と執事と家政婦、そして五か月前から居候している当主の後輩の男。

年に一回当主が持つ稀代の画家のコレクションを観るために、四人の男がやってきます。その後、塔から家政婦が落ちて死に、一枚の絵画と共に一人の男が忽然と姿を消し、当主の後輩の男が焼死体となって見つかります。
二人を殺し姿を消したとされている男の行方は一年経っても分からないままです。

そしてまた今年も年に一回のコレクション公開日に、姿を消した男以外の三人の男が館を訪れます。そこへひょっこりと現れた〝招かれざる客〟の島田潔。彼は一年前に姿を消した男の友人だと名乗り、彼がその様な事をするとは思えないと当主に告げます。知らない人間を館に入れたくない当主は迷惑がりますが、島田がふと漏らした「中村青司の水車館……」という言葉に抗えない何かを感じ、彼を招き入れることになるのでした。

そして今年もまた惨劇が起きます。当主への脅迫状が見つかり、家政婦が絞殺され、また男が一人殺されます。

この館で何が起こっているのか? 〝殺人犯〟は誰なのか? そして中村青司が設計したこの館の秘密とは——?

登場人物

藤沼 一成故人。幻視者と云われた稀代の画家。莫大な資産を残す。
藤沼 紀一(41)一成の一人息子。自動車事故で顔と手足に傷を負った為、白い仮面をつけて車椅子生活となる。水車館を建てて一成の絵画を全て集め、世間から離れて静かに暮らしている
藤沼 由里絵(19)紀一の幼妻。一成の弟子だった柴垣浩一郎の一人娘。由里絵が9歳の時に父浩一郎が31歳の若さでこの世を去り、浩一郎の望み通りに紀一が引き取った。16歳の時に紀一と籍を入れる。美少女。
倉本 庄司(56)水車館の執事。身体が大きく無表情。執事という仕事に満足しているが、この館を管理している自分こそが〝真の主〟だという想いを持つこともある。
根岸 文江(45)住み込みの家政婦(過去)。元看護士で家事全般から紀一の身辺の世話、健康管理もこなす。
野沢 朋子(31)通いの家政婦(現在)。陰気で無口な女。
正木 慎吾(38)紀一の大学時代の後輩。一成の弟子で将来を期待された画家だった。紀一が起こした自動車事故に同乗しており、婚約者を亡くしている。半年前から水車館に居候している(過去)
大石 源造(49)美術商。一成の絵を取り扱っていた。
森 滋彦(46)M**大学の美術史の教授。父親が一成の作品の芸術性を高く評価しその名を広めた。
三田村 則之(36)外科病院の院長。十二年前の自動車事故の時に紀一たちが運び込まれた病院で当時院長だった父と一緒に紀一の手術に立ち会った。色白、長身、女好きのする甘いマスク。
古川 恒仁(37)藤沼家の菩提寺の副住職。
島田 潔(36)招かれざる客。古川とは友人だった。古川が「殺人をして絵を盗んで逃げている」とされている事が信じられずに、ひょっこりと館を訪れる。

水車館の殺人の感想

塔のある館
image by Ansgar Scheffold from Unsplash

◎犯人のネタバレは致しません

これでもかというシチュエーション

水車館があるのは岡山県北部から悪路を車で一時間かけて辿り着く山あい。周囲を森に囲まれているということなので、これだけでうっそうとした雰囲気が感じられます。

ちなみに横溝正史の『八つ墓村』のモチーフになった『津山三十人殺し(1938年)』も岡山北部の山の中の集落なので、不気味さに拍車がかかります

そして住人が車椅子で白い仮面をつけた男。この時点でいわくつきの屋敷でないはずがないです 笑
そしてその妻が19歳のか細い美少女とな?? 年齢差ありすぎ! しかも16歳の時に入籍したって?? もう最初から主の藤沼紀一に嫌悪感湧きまくりですよ。そんな二人と執事と家政婦しかいない屋敷……。
しかも年に一回、藤沼の持つ絵画のコレクションを観に四人の男が屋鋪を訪れるという、いつもは閑散とした場所に人々が集まるだなんてこれ以上はない舞台が整っております。あれ、雷が鳴って風が強くなって雨が降ってきた……。何かが起きない訳がない

一年後、事件の真相を調べに(&中村青司の屋敷見たさに)島田潔がやってきます。……これは絶対誰か死ぬ!

過去と現在の二つの時間軸

物語は過去(1985年)と現在(1986年)の二つの時間軸で進行していきます。最初は行ったり来たりでは読みにくいかな?と思っていたのですが、 雷が鳴り雨が降ってきそうな天気を見て「あの家政婦が死んだ日もこんな天気だったな」という所から過去に移り、その事件が〝思い出話〟ではなくリアルタイムで書かれているので頭にスッと入ってきます。
「あの時こうなって——」と回想になるより、今その事件が起きて皆がどう動いているかというのが分かるので臨場感があります

また、詳しくは書けないのですが現実パートでちょいちょい何か変だな?と引っかかるところがあって、それが大きなヒントとなっています。過去パートも読み進めていくうちに違和感を感じるようになるので、カンのいい人は犯人が分かるかもしれませんね。

犯人や犯人の告白を読んでから、戻ってみてみると「これ、そういう事だったのか!」と唸ってしまいます。叙述トリックの醍醐味というか、さらっと読み進めてたら全然気づく事はできないです。
ただ、これも映像化が難しいのでは…?と思いますね。文章だから読み手が気づかない訳で。でも『十角館の殺人』もあれだけ〝映像化不可能〟と言われていたので、上手い方法があるかもしれませんね!

中村青司が設計した館という面白さ

前作『十角館の殺人』を読んでいると、中村青司の館というだけで「何かある」とワクワクしてしまいます。どこに何があるのかなぁと期待が膨らむ中、今回は古川恒仁が二階の部屋から忽然と姿を消してしまうので「ここに何か仕掛けがあるのね?」となりますが、島田潔がいくら調べても隠し扉や秘密の通路もないのです。
この消えた方法の謎を島田が解いていくところはミステリーの醍醐味を感じさせてくれます。

そして終盤に中村青司の趣味である館の〝からくり仕掛け〟がちゃんと出てきます。これが暴かれた時のハラハラドキドキ感もいいのですが、それによって過去と現在が一気に繋がる爽快感がたまりません。
「あ~~、そうだったのね!」となりつつ、隠し部屋にあった〝ある物〟の内容にゾッとするおまけつきです。

最後に

終始暗~い感じが漂っていて不気味な空気を感じる本書ですが、登場人物がみんなそれなりにうさん臭く、それでいて彼らの背景や考えていることなども丁寧に書かれているので、誰が犯人でどういうトリックを使ったのかと読み進めていくのが面白いです。

また、ただの可哀想な美少女だと思っていた由里絵が男を狂わす魔性の女だったという事は薄ら寒かったですね。無意識だったとしても怖いし、それを演じていたとしても怖い。自分を連れ出してくれる人ならだれでも良かったのかな……。

私は「あれ、この人ってこうなんじゃない?……という事は犯人は」って思って、実際それは正解だったのですが、どうやってそれを行ったのかという事やそれによって起こっている謎については全く分からなかったので、終盤で島田が解き明かしていく過程が本当に面白かったです。

さて、次の館シリーズの実写化はどの作品でしょうか??

『水車館の殺人』の登場人物はビジュアル的にもなかなか映像映えすると思うので、実写化もいいのではないかと思うのですが、上にも書きましたように〝文章だから気がつかない〟という犯人を示唆している箇所がちらほらあるので、それは映像として映してしまうとある人物がおかしいという事が一目瞭然なのでその辺は難しいかなと思います。

でも……分かりませんよね? 笑

次の実写化作品はどの館なのか、huluの発表を楽しみに待ちましょう!

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『十角館の殺人』実写化の感想はこちら

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